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巻頭特集

2019年スマイル夏号
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。

PD患者さんが知っておくべき
感染症予防のポイント

腹膜透析(PD)で注意すべき合併症の1つに感染症が挙げられます。加齢や糖尿病合併などの免疫機能が低下しやすい状況にあるPD患者さんにとって、かかりやすい上に重症化しやすい感染症。今回の特集では、感染症についての知識や対処法、予防のポイントについて、感染症対策専門ドクターが分かりやすく解説します。

岡 英明 先生

日本赤十字社 松山赤十字病院

岡 英明 先生
腎臓内科(腎センター)副部長
日本集中治療医学会推薦
インフェクションコントロールドクター(ICD)
*:病院内の感染対策を実践し、感染制御の専門的知識を有する医療従事者

なぜ感染症にかかりやすいのか

透析患者さんが感染症にかかりやすいといわれる理由を教えてください。
透析患者さんは高齢化が進んでいる上に、4割以上の方が糖尿病を合併しています。加齢や糖尿病は、免疫力の低下につながります。また、過度な食事制限や透析での除去によりビタミンやミネラルが不足しがちなことも免疫力低下の原因となります。

加えて、腎不全患者さんは体の中に入ってきた病原体を攻撃してくれる「細胞性免疫」が低下しやすいという特徴があります。このように、さまざまな要因で免疫力が低下するため、透析患者さんは感染症にかかりやすいといわれています。
透析患者さんでよく見られる感染症には、どのようなものがありますか。
特に注意が必要なのは結核です。細胞性免疫が低下すると結核を発症しやすく、透析患者さんは一般の人に比べて10~25倍のリスクがあるといわれています。なお、透析患者さんは肺以外の場所の結核、すなわち肺外結核が多いのも特徴です。

また、一般の方と同様に尿路感染症や肺炎、インフルエンザも透析患者さんでよく見られる感染症です。腎不全患者さんがインフルエンザにかかると重症化しやすいため、予防接種を受けるとともに、万が一かかった場合は早めに受診しましょう。

PD特有の感染症

PD患者さんに特有の感染症には、どういったものがありますか。
出口部・トンネル感染と腹膜炎がPD患者さんに特有の感染症です。
出口部・トンネル感染について教えてください。
出口部の痛みや赤み、排膿などが出口部感染で見られる主な症状です。出口部を保護しているガーゼの汚染で見つかることが多いです。出口部の感染は放っておくとトンネル部の感染に進行し、固定しているカフまで菌が到達してしまうと出口部を変更するための手術が必要になることが多いです。

PDカテーテルの留置術後、出口部の傷が完全に治っていない状態でカテーテルを引っ張ったりすると出口部が広がったり傷ができたりして、出口部感染を起こしやすくなります。そのため、特に術後数カ月間は固定をしっかり行うことが重要です。また、ベルトなどでこすれると傷ができやすくなりますので、運動をする場合はこすれないような工夫が必要です。当院では、こすれ防止のために腹巻きをするよう指導しています。
腹膜炎について教えてください。
腹膜炎の三大症状は排液の濁り、腹痛、発熱です。他にも吐き気や嘔吐などがあります。ただし、全ての症状が出るわけではなく、排液の濁りだけという場合も少なくありません。腹痛を伴えば気付きやすいですが、排液の濁りだけだと発見が遅れることもあります。排液の色の確認は欠かさず行いましょう。なお、APDの場合、排液タンクが汚れていると濁りに気付きにくいので注意してください。
腹膜炎の原因と治療について教えてください。
腹膜炎の原因は、外因性と内因性の2つに分けられます。 外因性は、接続操作のときに不潔にしてしまうことや、出口部・トンネル感染の進展が要因となって腹膜炎になる場合です。

内因性は、腸管にある憩室から菌が腹膜に移行したり、腸炎を起こした後に炎症が波及するなど、もともと患者さんの体の中に存在する菌が原因となる場合です。また、大腸や子宮の内視鏡検査や抜歯などの医療行為に伴って、腹膜炎を発症する場合もあります。検査や処置の前に予防的に抗生物質を投与する方法もありますので、PDでかかっている医療機関以外で検査や治療、処置を受ける場合は、PD治療を受けていることを伝えるとともに、PDの主治医にも連絡するようにしましょう。

腹膜炎の治療は、抗生物質の腹腔内投与もしくは点滴での投与を行い、経過が良ければ飲み薬に切り替えます。治療期間はおよそ2~3週間です。
※:ISPD 腹膜炎ガイドライン: 2016 年改訂より
ISPD Peritonitis Recommendations: 2016 Update on Prevention and Treatment. Perit Dial Int. 2016; 36(5): 481-508.
感染症の症状が出たときは、どうすればよいでしょうか。
出口部の痛みや赤み、膿などによるガーゼの汚染があれば、早めに病院に相談してください。腹痛や排液の濁りに気付いたときは、たとえ夜中であってもすぐに電話で連絡してください。濁った排液は原因菌を調べるために使用するので、捨てずに病院に持参してください。

腹膜炎は症状が軽いうちに早期発見・早期治療ができれば、PDを続けることへの影響はほとんどないといわれています。したがって早めに対応し、腹膜炎を繰り返さないようにすることが大切です。

感染症を予防するために

感染症を予防するためのポイントを教えてください。
一般の方と同様に手洗い、うがい、予防接種、免疫力を保つための十分な睡眠とバランスの良い食事が基本です。体格が小さめの方や高齢者では過度な食事制限をするよりも、きちんと食事をして透析をしっかり行う方が感染症の予防になります。また、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの予防接種が推奨されています。
PD患者さんに特有の感染症予防について教えてください。
出口部の固定をしっかりすることに加え、出口部のケアを毎日行ってください。出口部には垢やかすがたまりやすいので、カテーテルの裏側までよく観察し、垢やかすを取り除いて清潔に保ちましょう。観察する際に鏡を使うと裏側まで見ることができます。

また、便秘にも注意が必要です。あまりいきむと腸の圧が上がり、腸内の菌が腹膜に移動して腹膜炎を起こすことがあります。最低1日1回は排便があるように食生活に気を付け、適度な運動を行い、便秘を防ぎましょう。お薬の力を借りるのも1つの手ですので、必要な場合は主治医に相談してください。
これからの季節に注意することはありますか。
夏は汗をかきやすく、テープが剥がれやすいので固定をしっかりしましょう。また、腹巻きをしていると蒸れやすいので、ケアが大切です。

暑さで食欲が落ちて栄養状態が悪化すると抵抗力が落ちます。また体重が減って血圧が下がり過ぎても食欲が低下しますので、次回の定期受診まで待たずに病院に連絡してください。
口腔ケアについてはいかがでしょうか。
口の中には腹膜炎の原因となることがある連鎖球菌が常在しています。当院の調査では、歯みがきの回数が多い人や時間を長くかける人の方が腹膜炎になる割合が低いという傾向が見られました。この結果を基に、PDを導入する患者さんには全員歯科を受診してもらい、治療すべき歯や口腔疾患がないかどうかをチェックし、口腔ケアの指導をしてもらっています。歯周病は腹膜炎の原因となるだけでなく、生活習慣病や心血管合併症とも関連するといわれており、口腔ケアを行うことで肺炎の予防にもつながるといわれています。
最後に、患者さんへのメッセージをお願いします。
感染症にかからないように、日ごろから適度な運動とバランスの良い食事を心がけ、免疫力を保ちましょう。感染症を疑う症状が出た場合は躊躇することなく、すぐに病院に連絡しましょう。
腎臓内科・透析室のスタッフの皆さん 腎臓内科・透析室のスタッフの皆さん

松山赤十字病院腎臓内科の取り組み

同院では、腎代替療法が近くなった患者さんに対し、主治医だけではなく透析室の看護師からも、「互いに情報を提供し合って一緒に治療を決めて行くSDM(Shared DecisionMaking)」の考え方に基づき、聞き取りと情報提供を行っています。患者さんがやりたいことや尊重していることを聞き取り、たとえ透析になっても主体的な生活を送ることが可能な腎代替療法が選択できるようサポートしています。また、療法選択時などにPD患者さんと直接話ができる機会も設けています。

PD治療においては、交換回数が増えることはストレスの増加につながると考え、患者さんの状況に合わせて少しでも回数を減らせるPD処方の検討を心がけています。また、PDは患者さんが孤独になりがちな治療といわれることがありますが、同院のPD外来ではPD患者さん同士が情報交換するなど仲が良く、よい交流の場となっています。

病院データ

日本赤十字社 松山赤十字病院

日本赤十字社 松山赤十字病院

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  • 電話 089-924-1111(代表)
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