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巻頭特集

2020年スマイル秋号
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。

しっかり食べて元気なPDライフを

新型コロナウイルス感染症の流行は人々の生活様式に大きな変化をもたらしました。外出を控え、自宅で過ごす時間が増えたことで食生活の変化に悩まれている方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は元気な腹膜透析(PD)ライフを送っていただくため、食事について特集します。しっかり食べて元気に過ごしましょう。

菅野義彦先生

東京医科大学病院

菅野 義彦 先生
腎臓内科 主任教授/副院長

PD患者さんの食事管理

PD患者さんのエネルギー摂取について
基本となる考え方を教えてください。
PDの透析液の中には、糖分(ブドウ糖など)が含まれています。この糖分は、体の余分な水分を取り除く役割を担っていますが、透析中に血液中に吸収されてエネルギーにもなります。ですので、PD患者さんの1日の摂取エネルギー量は、透析液から吸収するエネルギーと食事から摂取するエネルギーを合計したものになります。

透析液からの吸収エネルギーは、透析液の種類や貯留時間、1日に使う透析液の量によって異なりますが、透析液2Lの4時間貯留で、約70~120kcalが吸収の目安となります。

透析液からの吸収エネルギーについて心配する方もいますが、食べる元気があるときは動く元気があるときともいえますので、過度に気にする必要はないでしょう。逆に、食欲がないときにはこの透析液からの吸収が貴重なエネルギーとなります。
エネルギー摂取量の目安を教えてください。
PDのガイドラインには、標準体重※11kg当たり30~35kcalが1日に必要なエネルギーの目安だと記載されていますが、実際には医師や栄養士が綿密な計算と経験に基づき、患者さんごとにエネルギー摂取量の目安を判断します。食事に関する指示は個別に検討するのが基本で、同じような年格好の患者さんでも、ライフスタイルなどによって異なる指示を出すこともあります。ご自身の摂取量の目安については、主治医や栄養士にお尋ねください。

また、たんぱく質やコレステロールなどは摂取量が血液検査や尿検査の結果に表れますが、エネルギーは指示された量を患者さんが摂取できているか、また取り過ぎていないかを検査値などから確認することが難しい項目です。機械に油を差すのと違い、人間が取ったエネルギーの体への吸収には多少の変動がありますので、私はあまり細かい数字にこだわる必要はないと考えています。例えばエネルギー摂取量を1,600kcalと指示された患者さんであれば、1,400~1,800kcalの範囲内で摂取すると考えるとよいでしょう。

エネルギー摂取量が適切であるかは、体重を指標にすると分かりやすいと思います。エネルギー摂取量が多過ぎ、少な過ぎの状態が続くと、体重に変化が表れます。普段の体重が50kgの方は49~51kgの範囲であれば問題ないと考えますが、体重が継続して増え続けたり減り続けたりしている場合は注意が必要です。PDの方は毎日体重をノートに書いていると思いますので、右肩上がりや右肩下がりが続いていないかという観点で見てみるとよいと思います。また、尿量など患者さんの状態によっても体重変動の範囲は異なりますので、主治医や医療スタッフに確認してみましょう。
※1 標準体重:標準体重は自分の今の体重ではありません。身長(m)×身長(m)×22 で求められます
他に留意した方がよい栄養素はありますか?
PD患者さんにとってエネルギーの次に大切な栄養素は、たんぱく質です。PDを行うとたんぱく質が透析液側に移動し体から失われてしまうため、それを補うためにも積極的にたんぱく質を摂取することが大切です。また、たんぱく質の摂取はサルコペニア※2やフレイル※3の予防にもつながりますので、特に高齢の方やサルコペニア・フレイルが危惧される方は、意識して摂取するようにしましょう。

ただし、まだ尿が出る方はたんぱく質を取り過ぎると腎臓に負担がかかりますので、サルコペニアの予防と残存腎機能を守ることのバランスを考慮して、主治医が適切なたんぱく質の摂取量を判断します。

たんぱく質といえば魚や肉などの“おかず”ですが、魚や肉を味付けなしで食べるのは難しく、たくさん食べると食塩の量も増えてしまいます。しょうゆやみそ、食塩の代わりにレモンやわさびなどを使ってもおいしいと感じられるように徐々に舌を慣らしていくと、食塩摂取量を増やさずにたんぱく質をたくさん取ることができます。
※2 サルコペニア:加齢や病気により筋肉量が減少し、全身の筋力および身体機能が低下した状態
※3 フレイル:加齢によって心と体の働きが弱くなってきた状態。健康な状態と要介護状態の中間ともいわれる
やはり食塩摂取量は
少ない方がよいのでしょうか。
食塩に関しては少なければ少ないほどよいのですが、食塩制限を行うことで食事の量が減少してしまう患者さんが少なくありません。先ほどお示しした通り、たんぱく質、つまり“おかず”は食塩で味付けされていますので、食塩を少なくしようとすることで、“おかず”が減る→ご飯が減る→結果として全体の食事量が減ってしまうのです。

PD患者さんでは1日の食塩摂取量の目安は6gですが、日本高血圧学会では、高齢者や透析の方で食塩6gを遵守することで食欲がなくなり痩せてしまう場合には、6gの制限を緩めてよいと認めています。その場合は尿量や身体活動度、体格、栄養状態、体重増加などを考慮して目標の数値や摂取量を決定します。数カ月ごとに目標の数値や摂取量を見直しながら、例えば血圧が上がってきたら再び食塩制限を加えるなど、調整していくことになります。

食欲がない場合や体重が増加した場合

食欲がない場合、放っておいても
問題ありませんか。
食欲の有無は診察で確認すべき重要な項目の1つですので、食欲がない場合は必ず医師や医療スタッフにお伝えください。暑いときなどに1、2日食欲がないというのであれば問題ないと考えますが、3日続けて食欲がない場合は注意が必要です。また、食欲不振が1~2週間続き、食事の量が減ると体重も減ってきます。このような場合は受診をお勧めします。

実際に食べることができないと、栄養失調症になってしまいます。すると抵抗力が弱まり、かぜなどの感染症に罹患しやすくなったり、治りにくくなったりします。さらに体力が落ち、転びやすくなることもあります。

また、食欲がない状態が長く続く場合は、別の病気が隠れている可能性もあります。PDライフが長くなると、毎月病院を受診しているからと健康診断を受けない方が見受けられ、知らないうちに胃腸の病気にかかっていることも考えられます。食欲がない状態は何かしら体に異常があるというサインですので、放っておいてはいけません。
食欲がない場合の食事の工夫や
アドバイスはありますか。
目先を変えるという意味で、香辛料を使うことも1つの方法です。それでも味覚が落ちていて食欲がないときは、一定期間塩味を強くして食べる量を増やし、体調を元に戻す方法を取ることもあります。とにかく食べられるものを探して口に入れましょう。食欲がないからと食べずに動くこともせずに過ごしていると、さらに食欲がなくなってしまいます。1週間ぐらいすると食べないことが胃にとって普通になってしまいますので、好きなものだけを食べるのでも構いませんし、水やお茶、スポーツドリンクなどの飲み物を口にするだけでも構いません。胃腸を動かし便を出すよう心がけましょう。

また、PDを行うことで透析液に含まれる糖分からエネルギーを補うことができますから、PDは普段通りに行ってください。
体重が増加しているときに
気を付けることはありますか。
一般に、透析患者さんはだんだん痩せていく傾向にあります。ですから、食べたものが血となり肉となって体重が増えるのは必ずしも悪いことではありません。ただし、急激な体重の増加や血糖値の上昇には気を付ける必要があります。

特に注意が必要なのは、水分だけが増加し体重が増えている場合で、心臓に負荷がかかり、心不全の恐れがあります。体重の増加と並行して息苦しさやむくみなど他の症状が出たときは、かかりつけの病院に連絡しましょう。

食事に関する疑問・質問

サプリメントを摂取してもよいですか。
摂取時の注意を教えてください。
サプリメントで栄養を補うことは基本的には問題ありません。ですが、医療スタッフに成分表を見せて、内容を確認してもらってから摂取するようにしてください。通信販売の場合は、購入する前に成分表の送付を依頼してみましょう。取り過ぎに注意が必要な成分が含まれていることもありますし、処方されている薬にも同じ成分が含まれていてサプリで摂取する必要がないこともあります。また外国産のものは、成分表を見ても何が入っているか分からない場合があり、要注意です。

同様に、健康食品には食塩が含まれているものも少なくありませんので、健康食品も始める前に医療スタッフにご相談ください。
リンの値が高いと言われました。
調べるとリンはあらゆる食品に入っていて
制限が難しいと感じています。
確かに、リンの制限は難しいですね。たんぱく質を積極的に取りましょうと言いましたが、たんぱく質とリンは関連していて、たんぱく質を多く取るとリンの摂取量も増えてしまいます。しかし、リンを抑えたいからとたんぱく質を取らずにいると、サルコペニアになる危険が高まります。基本的にリンは薬の服用でコントロールするものと考えてください。たんぱく質はしっかり取って、リンは薬でしっかり下げましょう。

食事で気を付ける場合には、リンの含有量が高い加工食品(ソーセージ、練り製品など)や清涼飲料水について、摂取する回数や量を減らすとよいでしょう。また、似たような食材でもリンの含有量が異なる場合もあります。リンの値が高い方は、リンの含有量が高い食品を無意識に多く摂取している可能性が考えられます。詳しくは栄養士にお尋ねください。
テイクアウトやデリバリーを利用する際に、
注意することはありますか。
選び方のポイントがあれば教えてください。
新型コロナウイルスの影響で、テイクアウトやデリバリーを行うお店が増えましたが、外食・コンビニ食を含めて味が濃いのが難点です。また、ソーセージなどの加工食品が使われていることも多く、食塩やリンが豊富に含まれています。テイクアウトでは、店内で提供されるより大盛りだったり、おかずの種類も充実していたりとお得な印象がありますが、1食に1日分の食塩(6g程度)が含まれているようなものもありそうです。昼食でテイクアウトやデリバリーを利用するのであれば、朝食と夕食は薄味にする、食べる前や食べた後に2~3日かけて食塩の調整を行うなど、前後の食事で調整することをお勧めします。また、1人で1人前を食べ切らないようにするのも食塩を抑えるコツです。
PD患者さんへのメッセージをお願いします。
外来のときに医師から「変わりありませんか? 」と聞かれて、つい「変わりありません」と答えていませんか。忙しそうな医師や看護師に質問することを躊躇することもあるかもしれませんが、疑問や質問があればいつでも声をかけてください。患者さんから質問を受けることで、医師や看護師は自分たちが詳しくない分野についても勉強するようになります。医師や看護師を育てる意味でも、納得できる回答が得られるまで何度でも質問していただければと思います。

食事を楽しむことはとても大切です。心配なことがあればスタッフに遠慮なく相談して、PDのメリットを生かしながら楽しく暮らしてください。
腎臓内科スタッフの皆さん 腎臓内科スタッフの皆さん

東京医科大学病院の腎不全治療に対する取り組み

2019年7月に開院した新病棟では6階に人工透析センターを設置し、腎不全治療を行っています。血液浄化療法対応ベッド14床と腹膜透析診察室を腎臓内科医師、看護師、臨床工学技士、看護助手、事務が管理し、慢性腎不全患者の透析導入(血液透析・PD)を中心に、合併症治療や手術による入院中の透析管理、多彩な疾患に対する血漿交換療法などに対応しています。腎移植を含めた療法選択外来については同大学八王子医療センターのスタッフのサポートを受け、患者さんを支援しています。

病院データ

東京医科大学病院

東京医科大学病院

  • 〒160-0023
  • 東京都新宿区西新宿6-7-1
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